『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』を読んだ

どこで知ったのか*1、かねてより気になっていた一冊。今月に入ってようやく腰を据えて読むことができたので記録しておく(読了まで大体10時間かかった)。

www.amazon.co.jp

後から知ったのだが、本書は名著であるという評判の一方で内容を全て理解するには難易度が高いという側面もあるようだ。確かに全てを読み込むには各作戦の地理的情報、ならびに当時の日本陸海軍の組織構成や力関係など図表や注釈が添えられているとはいえ複雑な事情を理解する必要がありそうだった。

しかしながら、特段の素養もない私にはせいぜい二次大戦を取り上げた作品群で仕入れた知識(初期にやっていた「艦これ」含む)や好奇心を持って収集した断片的な情報と関連付けながら読んでいくことしかできなかった。そして難解であることに詰まっていてもいつまでも読了できる気がしなかったので、あえて枝葉の部分は切り捨て一通り通して完走を優先した。

読後の感想

元は「危機における国家の意思決定や情報の処理を分析すること」をテーマに旧日本軍の様々な戦略的奇襲の事例をあたっていたようだが、調べるうちにタイトルのようなテーマをまとめるに至ったらしい。

それで本書は1章で下記の六つの作戦(全て日本視点では失敗に終わっている)を紹介した後、2章で各作戦に共通する戦略上・組織上の失敗要因の分析、3章で2章の分析から得られる教訓という流れになっている。

  • ノモンハン事件
  • ミッドウェー作戦
  • ガダルカナル作戦
  • インパール作戦
  • レイテ海戦
  • 沖縄戦

1章ではさらに作戦の背景、経過、アナリシス(作戦の総括)を6つの作戦それぞれで整理しており、個々の事例について何がまずかったのか、その背景には何があったのか、どうすべきだったのかということが明快に分かるように構成されている。

私は本書を読むまでは現場の凄惨さや下馬評での印象に引きずられた断片的な知識しか有しておらず、下手すれば各作戦の時系列自体怪しい理解であった。一読することでそれら既存の知識とは別の視点、戦略や組織、意思決定のレイヤーから捉え直すことができたと思う。あくまで俯瞰する視点であるから作戦当時の情勢の機微の変化や時系列についても自分の中でクリアに整理できたことと思う。

2章では、各作戦を総括して失敗要因を旧日本軍の戦略上、組織上それぞれで分析している。本書では作戦目的のあいまいさ(戦略上)と情緒主義的人事(組織上)、敵情認識の甘さ・楽観主義をその主たる要因として挙げている。

旧日本軍の場合、戦に負ける、という失敗を通じて組織として多くの課題が露見したわけであるが、その組織課題自体はなんなら現代に存在していてもおかしくないと感じた。例えば「学習をしない組織」や「情緒的意思決定を行う組織」など、それだけ見ればむしろありふれているもののようにすら思える。

組織に課題を抱えている、とはいえその組織を支えているのは人である。もし自分が所属する組織に組織的な課題を見たとして、どのように課題を第三者に共有できるだろうか、という点で示唆の多い章であった。

3章ではこれまでの総括としてより実践的な組織デザインについて語られている。

具体的にはあらゆる組織は自己革新組織であるべきであると本書は主張している。さらに自己革新組織たるためには、不均衡の想像、自律性の確保、異端・偶然との共存、統合的価値の共有など、旧日本軍の失敗を教訓にいくつかのエッセンスが必要であると説いている。

本書の初版が出たのは80年代半ば、ちょうど私の生まれ年と同じくらいだと推察するが、その当時にあって企業組織も旧日本軍組織のように硬直化する可能性に警鐘を鳴らしているところが興味深い。

本書をよりモノにするために

Kindleのリコメンドによると、この難解さを緩和しエッセンスを伝えてくれるものとして『「超」入門 失敗の本質』という書籍も存在するらしい。まずは原著にあたってそのままの感想をアウトプットした後は、おさらい・感想戦という意味合いもこめてこちらにもあたってみたいと思う。

www.amazon.co.jp

*1:多分、『失敗学のすすめ』から始まる個人的「畑村洋太郎氏ブーム」を追求する過程で見つけたものと記憶するが。